コラム
転がり軸受選択の勘どころ(第2回)|設計技術者のための設計技術力強化講座

厚生労働省発表「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)」では、最新の新規大卒就職者の離職率は31.47%、機械関係の製造業では16.3%となっています。
入社1~3年目の人が不本意な転職をせず続ける上で、着実に仕事のレベルアップができる事が一つのポイントになります。
特に機械設計技術者は、1人前になるのに10年かかるともいわれており、その中で1~3年目は基礎をじっくりと固める時期でもあります。
この記事では、機械設計経験1~3年程度の方向けに、「設計技術力強化講座」として基礎固めに役立つ記事をご紹介いたします。
機械技術者としてのスキルアップ、キャリア形成に向けて、お役に立てば何よりです。
こんにちは。暑い日々が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。このブログも無事第2回目を迎えることができました。これもこのブログを読んでくださるみなさまのおかげです。ありがとうございます。
今回も前回に引き続きころがり軸受についてお話しします。今回の内容もみなさまの業務の参考にしていただければ幸いです。
それでは第2回目講座始めます。
執筆者について
株式会社ものプロ
代表取締役 高原 東照
大手工業炉メーカーの設計子会社に入社後、熱処理炉や真空炉の設計業務に従事。同時に、社内で若手向けの技術教育にも携わる。その後新規顧客開拓にも取り組み、受注獲得した研削機、ブラスト機、コンベア等の設備を設計。転職、退社を経て、2017 年に、ものプロを設立。機械設計技術者の養成に携わる一方、機械設計・製図を受託し日々製図・検図に携わる。
目次
転がり軸受のはめあい
軸受と軸あるいはハウジングのと間のしめしろが足りないと、すべりを生じ、摩耗、発熱、振動などの原因となります。軸受の使用法、荷重の種類のはめあい例を説明します。
1)外輪が静止、一定方向荷重
内輪が回転し、外輪に対し一定方向荷重がかかる場合
内輪:しまりばめ
(はめあい例、H7/p6)
外輪:すきまばめ
(はめあい例、H7/g7)
2)内輪が静止、一定方向荷重
外輪が回転し、内輪に対し一定方向荷重がかかる場合
内輪:すきまばめ
外輪:しまりばめ
3)外輪が静止回転荷重
内輪が回転し、外輪に対し回転荷重がかかる場合
内輪:すきまばめ
(しまりばめ)
外輪:しまりばめ
4)内輪が静止、回転荷重
外輪が回転し、内輪に対し回転荷重がかかる場合
内輪: しまりばめ
外輪:すきまばめ
(しまりばめ)
※荷重が大きいほど、また振動、変動荷重の場合は、より大きいしめしろが必要となります。
転がり軸受の配列
軸は通常、2個の軸受で支持され、また軸の熱伸縮を逃がすようにします。代表的な配列の例を説明します。
1)軸受で熱膨張を逃がす
軸受Aで軸を位置決めし、軸受Bで軸の伸縮を逃がします。
軸受A
単列深溝玉軸受
組み合わせアンギュラ軸受
自動調心ころ軸受
軸受B
円筒ころ軸受
2)外輪とハウジング間で熱膨張を逃がす
軸受Cの外輪とハウジングの間を緩みばめにし、軸の伸縮を逃がします。
(単列深溝玉軸受のみを用いる場合はこの配列)
軸受A、軸受C
単列深溝玉軸受
組み合わせアンギュラ軸受
自動調心ころ軸受
3)軸が短く、熱伸縮が無視できる場合
軸が短く伸縮が小さい場合で、ともに予圧をかけて用います。
軸受D、軸受E
単列深溝玉軸受
単列アンギュラ軸受
自動調心ころ軸受
※長さ100mmの鉄鋼棒が1℃上昇したときの伸び量は1μmです。「100、1、1」と覚えておくと便利です。もし1mの鉄鋼棒が10℃の上昇であれば、10×10倍して100μm=0.1mmとなります。
転がり軸受の予圧
軸受は運転中わずかなすきまの状態で使われますが、アンギュラ玉軸受、円すいころ軸受のように2個対向させて使う軸受は、用途によってはアキシアル方向に負のすきまをもたせて使用します。この状態を予圧といいます。すなわち転動体と軌道輪との間で弾性接触の状態にあります。
この結果、次のような効果が得られます。
- 軸受剛性が高くなる。
- 高速回転に適する。
- 回転精度および位置決め精度が向上する。
- 振動および騒音が抑制される。
- 転動体の滑りに起因するスミアリングを軽減する。
- 外部振動で発生するフレッチングを防止する。
※スミアリング、フレッチングについては、「2-6 軸受の損傷と対策」で説明します。
しかし過大予圧になると寿命低下、異常発熱、回転トルクの増大などを招くので、注意が必要です。
<予圧の方法>
軸受に予圧を与える方法として、対向する軸受を固定し、軸受の幅寸法、間座およびシムなどの寸法を調整することによって所定の予圧をかける定位置予圧と、ばねを用いて予圧する耐圧予圧の2つの方法があります。
予圧方法の具体例を次表にまとめます。なお、組み合わせアンギュラ玉軸受については標準予圧量が設定されています。具体的な数値についてはカタログを参照します。
転がり軸受の音響
軸受の内輪または外輪が回転すると、転動体が保持器を伴い軌道面上を転がり回転するために、いろいろな振動および音が発生します。すなわち転がり面および各滑り部分の形状、粗さ、さらには潤滑状況などにより振動、音が発生します。
軸受の典型的な異常音について次表にまとめます。
転がり軸受の材料
転がり軸受の材料には、次のような特性が要求されます。
- 高い接触圧力にも耐えられる優れた耐圧痕性と高い硬度。
- 優れた疲れ寿命性。
- 長期にわたって形状精度を維持できる寸法安定性。
- 優れた耐摩耗性と被削性(材料の加工のし易さ)。
転がり軸受の材料としては、完全硬化鋼と表面硬化鋼があります。
1)完全硬化鋼
高炭素クロム鋼(SUJ2、SUJ3、C:1%、Cr:1.5%を含む)材料の表面から内部まで焼入れ、焼き戻し処理を行い、ロックウェル硬さをHRC57~64としたもので、一般の転がり軸受に使用されます。
2)表面硬化鋼
衝撃荷重が加わるような転がり軸受では、浸炭焼入れなどで表面のみ硬化させた材料が使われます。これにより、表面に発生した亀裂が内部に進展せず転がり軸受の破損を防ぐことができます。この材料の表面硬度はHRC60程度、内部はHRC40程度で、クロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼などが使われます。
軸受の損傷と対策
一般に軸受は正しく取り扱えば転がり疲労寿命まで使用できますが、早期損傷の場合には軸受の選定、取り扱い、潤滑、密封装置など何らかの不備に起因すると考えられます。軸受損傷状況から原因を推定することは要因が多岐にわたるため非常に難しいが、使用機械、使用箇所、使用条件、および軸受周りの構造などをよく把握し、破損発生時の状況と現象から、原因を推定し再発防止を図ることが重要です。
以下に軸受の損傷と主な発生原因および対策を示します。
1)フレーキング(剥離)
現象
軌道面や転動体表面がうろこ状にはがれる。はがれた後に著しい凹凸ができる。
主な発生原因
- 過大な荷重、疲労寿命、取り扱い不良
- 取付け不良
- 軸またはハウジングの精度不良
- 内部すきま過小
- 異物の侵入
- さびの発生
- 潤滑不良
- 異常温度上昇による硬さの低下
主な対策
- 軸受の再選定
- 内部すきまの再検討
- 軸、ハウジング加工精度の見直し
- 使用条件の見直し
- 組立方法・取扱いの改善
- 軸受周りのチェック
- 潤滑剤、潤滑方法の見直し
2)焼付き
現象
- 軸受が発熱し変色、さらには焼付き、回転不能となる。
主な発生原因
- 内部すきま過小(変形による部分内部すきま小を含む)
- 潤滑不足または潤滑剤の不適
- 過大荷重(過大予圧)
- ころのスキュー(歪み)
- 異常温度上昇による硬さの低下
主な対策
- 潤滑剤の見直しおよび量の確保
- 内部すきまの再検討(内部すきまを大きくする)
- ミスアライメントの防止
- 使用条件の見直し
- 組立方法・取扱いの改善
3)割れ・欠け
現象
- 部分的に欠落している。ひびが入っている。割れている。
主な発生原因
- 過大な衝撃荷重の作用
- 取扱い不良(鋼製ハンマーの使用、大きな異物の噛み込み)
- 潤滑不良による表面変質の形成
- しめしろ過大
- 大きなフレーキング
- フリクションクラック
- 取付け相手の精度不良(隅の丸み大)
主な対策
- 潤滑剤の見直し(フリクションクラックの防止)
- 適正しめしろの見直し
- 材質の見直し
- 使用条件の見直し
- 組立方法・取扱いの改善
4)保持器破損
現象
リベットが緩むかまたは切断する。保持器が破断する。
主な発生原因
- 過大なモーメント荷重の作用
- 高速回転または大きな回転変動
- 潤滑不良
- 異物の噛み込み
- 振動が大きい
- 取付け不良(傾いた状態での取付け)
主な対策
- 潤滑剤・潤滑方法の見直し
- 保持器選定の見直し
- 軸、ハウジング剛性の検討
- 使用条件の見直し
- 組立方法・取扱いの改善
5)転走跡の蛇行
現象
- 軌道面にできる当り(転動体の転走跡)が蛇行または斜行している。
主な発生原因
- 軸またはハウジングの精度不良
- 取付け不良
- 軸およびハウジングの剛性不足
- 内部すきま過大による軸の振れ回り
主な対策
- 内部すきまの再検討
- 軸、ハウジング加工精度の見直し
- 軸、ハウジング剛性の見直し
6)スミアリング・かじり
現象
表面が荒れ、微小な溶着を伴っている。軌道輪つば面ところの端面の荒れを一般にかじりと称す。
主な発生原因
- 潤滑不良
- 異物の侵入
- 軸受の傾きによるころのスキュー(歪み)
- アキシアル荷重大によるつば面の油切れ
- 面粗さ大
- 転動体の滑り大
主な対策
- 潤滑剤、潤滑方法の見直し
- 密封性能の強化
- 予圧の見直し
- 使用条件の見直し
- 組立方法・取扱いの改善
7)さび・腐食
現象
- 表面の一部または全面がさびている。転動体ピッチ状にさびることもある。
主な発生原因
- 保管状況の不良
- 包装不適
- 防せい剤不足
- 水分、酸などの浸入
- 素手での取扱い
主な対策
- 保管ちゅうのさび防止対策
- 潤滑剤の定期検査
- 密封性能の強化
- 組立方法・取扱いの改善
8)フレッチング
現象
- はめあい面に赤さび色の摩耗粉を生じるものと軌道面に転動体ピッチに生じるブリネル圧痕状のものがある。
主な発生原因
- しめしろ不足
- 軸受の揺動角が小さい
- 潤滑不足(無潤滑状態)
- 変動荷重
- 輸送中の振動、停止中の振動
主な対策
- 軸受の再選定
- 潤滑剤、潤滑方法の見直し
- しめしろの見直しおよびはめあい面に潤滑剤を塗布する
- 内輪・外輪の分離包装(輸送時)
9)摩耗
現象
表面が摩耗し、寸法変化を起こしている。荒れ、傷を伴うことが多い。
主な発生原因
- 潤滑剤中への異物の混入
- 潤滑不足
- ころのスキュー(歪み)
主な対策
- 潤滑剤、潤滑方法の見直し
- 密封性能の強化
- ミスアライメントの防止
10)電食
現象
- 軌道面に噴火口状の凹みが見られ、さらに進展すると波板状になる。
主な発生原因
- 軌道面での通電
主な対策
- 電流のバイパスを作る
- 軸受を絶縁する
11)圧痕・傷
現象
固形異物の噛み込み。衝撃による表面の凹みおよび組込み時のすり傷。
主な発生原因
- 固形異物の侵入
- はく離片の噛み込み
- 取扱い不良による打撃、落下
- 傾いた状態での組込み
主な対策
- 組立方法・取扱いの改善
- 密封性能の強化(異物浸入の防止対策)
- 軸受周りのチェック(金属片に起因するとき)
12)クリープ
現象
内径面、外径面の滑りにより、鏡面になる。また、変色やかじりを伴う場合もある。
主な発生原因
- はめあい部のしめしろ不足
- スリーブ締付け不足
- 異常な温度上昇
- 過大荷重の作用
主な対策
- しめしろの見直し
- 使用条件の見直し
- 軸、ハウジングの加工精度の見直し
- 軌道輪の幅面締結
13)なし地
現象
- 軌道面の光沢が消え、なし地状に荒れている。微小な圧痕の集合。
主な発生原因
- 異物の混入
- 潤滑不良
主な対策
- 潤滑剤・潤滑方法の見直し
- 密封装置の見直し
- 潤滑油の清浄化(フィルタなどによるろ過)
14)ピーリング
現象
- 微小はく離(大きさ10μm程度)の密集した部分をいう。はく離に至っていない亀裂も無数に存在する。ころ軸受に発生しやすい
主な発生原因
- 異物の侵入
- 潤滑不良
主な対策
- 潤滑剤、潤滑方法の見直し
- 密封性能の強化(異物浸入の防止対策)
- なじみ運動の実施
次回は機械要素で最も使用される「ねじ」について説明します。
- 参考文献
- 「続・実際の設計」実際の設計研究所著、日刊工業新聞社、2017年
- 「ベアリングがわかる本」NTN株式会社編集チーム著、工業調査会、2007年
- 「はじめての機械要素」吉本成香著、森北出版、2017年
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